
EMSマシンによる産後ダイエット、体型戻しのウソ?ホント?
こんにちは、伊集院です。
最近では、多くの整骨院や整体院が「産後の骨盤矯正」や「産後ダイエット」をメニューに取り入れていますね。
しかし、「どの院を選べばいいの?」「本当に効果があるの?」と迷っている方も多いのではないでしょうか。
今回は、その中でも特に注意していただきたい「EMSマシン(電気刺激による筋トレ機器)」についてお話しします。
「寝たままで腹筋が鍛えられる」
「楽してお腹を凹ませましょう!」
というキャッチコピーをよく見かけますが、実は産後のママにとってとても危険な落とし穴があるんです。
産後の身体はどう変化しているのか?

妊娠中、お腹の赤ちゃんが大きくなるにつれて、腹筋や靭帯は大きく引き伸ばされます。
特に左右の腹直筋の真ん中にある「白線(はくせん)」という部分は、妊娠後期になると2〜3cmほど開いてしまうことがあります。
出産後もしばらくはこの「白線離開(腹直筋離開)」が残り、腹部の筋肉がうまく働かない状態になります。
さらに、リラキシンというホルモンの影響で骨盤周りの靭帯が緩み、体の安定性も低下しています。
この時期に強い電気刺激を与えて腹筋を動かしてしまうと、白線離開が悪化したり、回復が遅れてしまう可能性があるのです。
EMSは一時的な「引き締まり感」だけ

EMSを使うと、お腹が一時的に引き締まったように感じるかもしれません。
これは筋肉が電気刺激によって収縮しているだけで、実際に筋肉がついたわけではありません。
私自身も何度も体験しましたが、数時間後にはウエストが元に戻ってしまいました。
当院でもデモ機をお借りし、スタッフ3名で2週間実験したことがあります。
結果は全員同じで、施術直後に1〜3cmほどサイズダウンするものの、翌朝には完全に戻っていました。
筋力アップの実感もまったくなし。
つまり、「筋肉がついたように見えるだけ」なのです。
EMSで起こっていることとは?

少し専門的な話になりますが、EMS(Electrical Muscle Stimulation)は皮膚の表面から電気刺激を与え、筋肉を外部から強制的に収縮させる装置です。
自分の意思ではなく、電気の力で「勝手に」筋肉が動く状態です。
最近のEMS機器は出力も強く、確かに筋肉がしっかり動いている感覚があります。
しかし、実際にはその収縮はあくまで「受け身の収縮」であり、筋肉を成長させるために必要な“身体の仕組み”がほとんど働いていません。
筋肉を本当に成長・機能向上させるためには、次の3つのプロセスが必要です。
-
脳からの指令によって筋肉が能動的に動くこと(神経活動)
-
その動きに合わせた血流・代謝の活性化(エネルギー消費)
-
筋肉と関節の連動による実用的な動きの再教育(運動連鎖)
EMSでは①の「脳からの指令」がほとんど起こらず、②の血流や代謝反応も限定的。
さらに③の「関節や姿勢を伴う動き」がないため、“使える筋肉”としては育たないのです。
つまり、電気刺激によって筋肉を動かしても、脳と筋肉のつながり(神経—筋連携)を育てることができない。
これが、EMSで一時的な引き締まり感は得られても、長期的な筋力アップやボディライン改善につながらない最大の理由です。
EMSが医療現場で使われるのはどんな時?
誤解のないようにお伝えしておくと、EMS自体が「悪い機器」というわけではありません。
医療の現場では、脳卒中やケガなどで自分の意思で筋肉を動かせない方のリハビリに使われます。
その場合は「筋肉の萎縮を防ぐ」目的であり、わずかな筋力維持には役立つとされています。
しかし、健康な人が「筋肉をつける」「痩せる」といった目的で使う場合、
その効果は科学的にも非常に限定的であるというのが、多くの研究や臨床報告で一致した見解です。
寝たままで筋肉は育たない
もし速く走れるようになりたいなら、実際に走る練習をしますよね。
高くジャンプしたいなら、ジャンプの練習をします。
寝たまま電気を当てているだけでそんな結果が出るでしょうか?
――そんなはずがありません。
産後の腹筋や骨盤底筋も同じです。
実際の動きや呼吸と連動させてトレーニングを行うことこそが、本当に機能する筋肉を作るための唯一の方法なのです。
安全にできるトレーニング法:ドローイン+ピラティス的アプローチ

では、安全に産後の腹筋を回復させるにはどうすればよいのでしょうか?
おすすめなのが、「ドローイン」と呼ばれる呼吸法です。
仰向けに寝て、膝を立てた姿勢で行います。
息をゆっくり吐きながら、おへそを背中に引き寄せるようにお腹をへこませていきます。
このとき働くのが、腹横筋というインナーマッスル。
白線離開を悪化させることなく、腹部の安定性を高めることができます。
ここに、ピラティスの要素を少し取り入れると、さらに効果が高まります。
ピラティスは呼吸と姿勢、そして「体幹(コア)」の連動を大切にするエクササイズ。
特に産後のママにとっては、崩れた骨盤の位置を整え、インナーマッスルを無理なく再教育するのにぴったりです。
たとえば、ドローイン呼吸をしながら、
-
仰向けで両膝を立て、骨盤を前後に小さく動かす「ペルビック・ティルト」
-
息を吐きながら背骨を一つずつ動かしていく「ショルダーブリッジ」
といったピラティスの基本動作を組み合わせると、より自然に筋肉が目覚めていきます。
呼吸を意識しながら行うことで、骨盤底筋や腹横筋を中心に「中から引き締める感覚」を体感できるはずです。
産後すぐの時期は激しい運動を避け、“呼吸と姿勢を整える”ことから始めるのがポイント。
ピラティス的なアプローチは、体力が戻っていないママでも安心して行えるのでおすすめです。
EMSでは解決しない産後トラブル

産後の腹筋群や骨盤底筋群の筋力低下は、見た目の問題だけではありません。
放置すると次のような不調を引き起こすことがあります。
-
ポッコリお腹が戻らない
-
内臓下垂による便秘・胃もたれ
-
尿漏れや痔
-
二人目不妊
-
年齢を重ねてからの子宮脱
これらを防ぐためには、身体の構造を理解したうえで、適切に筋肉を動かすことが大切です。
電気に頼るのではなく、自分の力で少しずつ回復させていきましょう。
実際の患者さんの事例
ここで、実際の患者さんのケースをご紹介します。
ある30代の産後ママさんは、他の整骨院でEMSを3カ月間に12回受けたそうです。
「全くお腹が凹まない」
と悩み、当院に来院されました。
検査してみると、白線離開が残り、腹圧も抜けてしまっている状態。
EMSでは根本的な腹筋・骨盤底筋の回復にはつながらないことが分かりました。
そこで当院では、骨盤矯正とドローイン呼吸法を取り入れたピラティス的トレーニングを中心に施術を行いました。
その結果、1か月後にお腹のラインがスッキリして、3カ月後にはウエストが5センチダウン、腰痛や尿漏れも解消。
ママさんは「もっと早く正しい方法を知っていればよかった…」と笑顔で話してくださいました。
このように、産後ケアでは正しい方法で筋肉と骨盤を整えることが非常に重要です。
一時的なEMSの引き締まり感だけに頼っても、根本的な改善は難しいことが実例からも分かります。
なぜEMSが流行っているのか?

「では、なぜ多くの整骨院でEMSを導入しているのか?」
その理由はとてもシンプルです。
「楽して儲かるから」です。
施術者がスイッチを押すだけででき、スタッフ教育もほとんど不要。
さらに業者が「○人施術すれば○○万円の売上アップ!」と営業をかけてくるため、導入が進んでいるのです。
中には業者が患者さんに直接説明してくれるケースもあり、完全にビジネス化しています。
もちろん、ビジネス自体が悪いわけではありません。
しかし、私たち医療従事者が忘れてはいけないのは、患者さんの健康を第一に考える姿勢です。
そこを見失ってしまえば、本来の目的から大きくずれてしまいます。
院長からのメッセージ
私はこれまで多くの産後ママを診てきましたが、「間違った情報」で体調を崩してしまう方をたくさん見てきました。
SNSや広告では「簡単」「すぐ痩せる」という言葉が溢れていますが、本当に大切なのは“自分の体を正しく理解することです。
産後の身体は、人生の中でもっともデリケートで、そしてリセットのチャンスでもあります。
焦らず、確実に、一緒に整えていきましょう。
産後のママたちが安全に、美しく、健康な身体を取り戻せるように。
これからも正しい情報をお伝えしていきます。
まとめ
-
産後の白線離開がある時期にEMSを使うのは危険
-
EMSは一時的な引き締まり感だけで、筋肉はつかない
-
ドローイン+ピラティス的アプローチが安全で効果的
-
EMS流行の背景にはビジネス的な理由がある
-
正しいトレーニングと院選びで、安全に回復できる
~子どもの幸せはママの笑顔から~
伊集院鍼灸整骨院グループ代表 伊集院博
著者プロフィール 伊集院 博
兵庫県神戸市生まれ。千葉県千葉市在住。2007年に千葉市中央区にて伊集院鍼灸整骨院を開業。現在は千葉県で2店舗の鍼灸整骨院とマシンピラティススタジオの代表を務める。
『子どもの幸せはママの笑顔から』をミッションに掲げ、ママと赤ちゃんに日本で一番やさしい整骨院を目指し、整骨院に保育士在籍の無料託児所を併設。託児は保育士がマンツーマンで対応するなどサービス内容も充実している。
産後の腰痛、股関節痛、恥骨痛、尾てい骨痛などの改善や、体型戻しのトレーニング指導には定評があり、産後の不調で来院されるママさんは年間延べ5,000人以上。
著書『ゴールデンライン 美しい姿勢をつくる44のレッスン』
主な資格と実績
- 伊集院鍼灸整骨院グループ代表
- 柔道整復師(国家資格)
- 鍼灸師(国家資格)
- ケアマネージャー
- シュロスベストプラクティスⓇ
(側弯症運動療法の資格) - 側弯症ピラティスインストラクター
- BESJ認定ピラティストレーナー
- BTA認定バレエダンサートレーナー
- ハワイ大学解剖実習終了
- 治療家大學技術講師就任

















